産業用ロボット人材育成事業「ロボメイツ」の一環として、尼崎双星高校の生徒が小学校に出向く形でロボット体験授業を実施。2回目の授業では、モーター付きアームロボットのプログラミング体験と、アームロボットの先の部分を模した「パクパクハンド」というオリジナルロボット教材を組み立てる工作を行いました。
2回目の授業はプログラミングとロボット工作
ロボメイツ班も商品開発班も全員参加で授業を実施
尼崎市立尼崎双星高等学校(以下、尼崎双星高校)商業学科3年生26人は、2022年9月の1回目の授業の後、振り返りをして教え方を考えたり、プログラミングで使う台をブロックと棒で作ったりと、準備を重ねてきました。
そして10月26日に尼崎市立上坂部小学校を訪問し、6年生、3クラス92人を対象に2回目のロボット授業を実施。当日は尼崎市の稲村和美市長(当時)をはじめ、多くの来賓の方に授業の様子をご覧いただく中、プログラミングとロボット工作を行いました。
ロボメイツ班も商品開発班も合わせて26人全員が参加して、小学校の3クラスそれぞれプログラミングとロボット工作の計6グループとカメラマンに分かれ、司会進行や教える先生役など各自の担当につきました。
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プログラミングのミッションは「みかんまんじゅうの箱詰め」
この授業で設定した課題は、教材用のモーター付きアームロボットをパソコンのプログラムソフト「スクラッチ」で操作し、ピンポン玉をつかんで運び、計量して箱に詰める作業です。
課題は単に操作するだけではなく、小学生が楽しめるようなゲーム仕立てにしており、シナリオは、前年(2021年)度に授業を受けた尼崎双星高校の先輩と、ロボメイツの大学生スタッフが考えました。
その設定したストーリーとは、「(架空の)尼崎のまんじゅう工房が作る『みかんまんじゅう』がSNSで話題になり、急に注文が増えたものの、手作業で箱詰めを行っていたため生産が追い付かない。そこで、自動検品、自動箱詰めするアームロボットを導入した。小学生のみんなには、そのロボットオペレーターとして、アームロボットのティーチング(指示)をして生産ラインを構築するミッションをクリアしてほしい」というものです。
小学生はグループに分かれて交替でプログラミングを行い、高校生がサポートする中、次々とみかんまんじゅうに見立てたピンポン玉を箱に詰めていきました。
ロボット工作は「パクパクハンド」の組み立て
ロボット工作の「パクパクハンド」は、同じ尼崎市内にある産業技術短期大学の二井見博文教授(当時・機械工学科、現・電気電子工学科)がロボメイツのために開発してくださったオリジナル教材です。
アームロボットの先端でものをつかむ「ハンド」の部分をロボット工作キットにしたもので、小学生が自分で組み立て、ネジを締めて作ります。パクパクハンド本体にペンを差し込み、片手でペンを握り、もう片方の手でひもを引き口を開閉させると、アームロボットの先端の動きが再現される仕組みです。
小学校で習う支点、力点、作用点の「てこの原理」の学習にもなります。力がいらず操作も簡単なので、子どもたちは組み立てた後、開いてブロックをつかんでは積み上げて楽しみました。早く作り終えた子が教える方に回るなど、児童同士が協力して進める姿が見られ、中には、愛着がわいたようで自分で作ったロボットへ名前を付ける子も。このパクパクハンドは小学生へお土産としてプレゼントしました。
小学生の感想
授業後に、小学生へアンケート調査を実施したところ、「高校生による授業は分かりやすかった」100%、「高校生による授業は楽しかった」98.9%との評価を得ました。
フリー回答でも、
・高校生がやさしく教えてくれて、困ることなくできた。
・プログラミングを本格的にしたのは初めて。新鮮で楽しかった!
・自分でロボットを組み立てるのが楽しかった
・ロボットを動かすことは今後もあるかもしれないので、いい経験になった
などの感想がありました。
そのほかの質問に対しては、
「ロボット操作が面白かった」82.8%、
「アームロボットに興味を持った」86.4%
「今後もアームロボットについて学びたい」80.7%という結果になりました。
※割合はいずれも、「はい」「どちらかといえばはい」を合計した数字です。
小学生から高校生へのお礼の手紙
上記のアンケート調査は授業の当日に行いましたが、後日、6年生のみなさん一人ひとりが高校生へお礼の手紙を書いてくれました。
体験学習で学んだことのまとめ、プログラミングの良さや魅力について、そして、尼崎双星高校の生徒に向けてだけでなく当社スタッフへのお礼や感想も。さらに「もっと知りたいこと」まで丁寧に書かれており、高校生たちはこのプレゼントに「授業をやってよかった」と喜び、私たちもうれしい気持ちになりました。
高校生の感想
喜びを感じた高校生たち
・産業用ロボットのプログラミング、操作をした小学生が「大人になったらこんな仕事やりたい」「これ向いてるかも」と興味を持ってくれたので、教えていてうれしい気持ちになった。せっかくならと全部の箱詰め完了を目指して工夫した。そのおかげもあり全部でき、小学生の喜ぶ姿を見られてよかった。
・この「リレー型体験学習」はロボットについて知るだけではなく、人に伝えるためのトレーニングにもなった。先生として小学生に教えるというのはなかなかない体験で不慣れだけれど、できるだけ自分の言葉で説明するように心がけた。
・パクパクハンドを通して、支点、力点、作用点ももう一度学び直すことができた。
・小学生は明るく元気でとても癒された。楽しんでくれたようで、お別れの時に後ろについてくる児童もいた。最初から難しいロボットを操作するのではなく楽しんでもらうことを意識したことで、小学生は楽しんでいたので、大成功だったと思う。
高校生から小学生への手紙
高校生からも小学生へ手紙を書きました。授業での思い出やうれしかったこと、よかったこと、中学校入学へ向けたエールのほか、イラストを描いたり「推し」を紹介したり。それぞれ個性豊かなメッセージを送りました。
小学校のプログラミング授業における課題解決の一助に
現場の先生方の抱える課題とは
2020年度からプログラミング教育が小学校の授業へ導入されましたが、小学校の先生方にお聞きしたところ、プログラミングの授業で困った経験があるといいます。
・どの教材でどんな力がつくか意識するのが難しく、目当てがないまま進んでしまう
・担任1人で進めるのでトラブルが重なると対応が難しい→授業の進行の遅れにつながる
・知識が未熟である、技量不足
・何から取り組めば良いかわからない
・児童により知識や技術の差が大きく、授業を進めることが難しい など
これらの回答からも、小学校の先生1人で1クラス約30~40人の児童にプログラミング教育を行う難しさ、課題が浮かび上がりました。
ロボメイツがロボット体験授業で目指すもの
高校生による小学校への出張ロボット体験授業には、上記の課題解決に役立ちたいというロボメイツの願いがあります。
高校生が数人で小学生のグループを受け持つことで先生方の負担を減らし、小学生が交流と体験を楽しみながら授業を受けられます。高校生にとっても、人に教えることで主体的に学び、コミュニケーション能力を伸ばす貴重な機会になります。
今回訪問した小学校の先生方からは、下記の感想をいただきました。
・今回のように、他の学校や企業と連携して授業をつくるのも、素敵な取り組みだと思います。
・生徒さんへ「どういう活動ですか」「どんな意味がありますか」などインタビューしたところ、皆さん、自分の言葉でしっかりと答えてくださったので、素晴らしいなと感じました。
まとめ
産業用ロボット人材育成事業「ロボメイツ」の一環として、尼崎双星高校の生徒が小学校に出向く形でロボット体験授業を実施。2回目の授業ではアームロボットのプログラミング体験と「パクパクハンド」というオリジナルロボット教材を組み立てる工作を行いました。1回目の授業で高校生と小学生が仲良くなる交流の時間を持ったことが功を奏し、2回目も楽しく進められた上、感想からは、高校生、小学生ともに気付きや学びのある時間を過ごせた様子がうかがえました。同校の授業レポートは「④商品開発班/中野製作所様の樹脂加工技術で『スマホグリップ』を製作」へ続きます。